AREAのスペシャル企画、連載対談「日本のインテリアの行方」の第七弾をお届けします。

今回のゲストは、建築家の黒崎敏さんです。



(黒崎)いろんなジャンルの方々が登場されていて、面白い企画ですね。建築家は今回が初めてですよね。

(野田)はい。「日本のインテリアの行方」というテーマでお話を伺っています。まずは簡単に、お仕事のご紹介をお願いできますか?

(黒崎)私はもともと都市の小住宅の設計から始めたのですが、昨今は建築スケールがだんだん大きくなってきて、ラグジュアリーな層に向けた物件を作ることも多くなってきました。2000年に創業してから180棟くらい手掛けているので、年間9〜10棟になります。

(野田)すごいペースですね。

(黒崎)そうですね。だから、マーケットの流れを直接肌で感じてきました。2000年代はカフェブームで、カフェのような気楽な雰囲気の家が欲しいという人が多かったですね。2010年くらいになると、プライベートハウスというよりは、ゲストを呼んだりできるホテルライクな空間にしたいという人が増えました。ホテルまでいかなくても、住宅以上ホテル未満、日常と非日常の間の“半日常”の空間です。面白いパブリックスペースが付いた住宅も増えていて、客間でおもてなしする文化も蘇ってきていますね。あとは、別荘をいくつも持って、仕事で各地を移動しながらそこにある家に住むといったスタイルや、住宅をシェアしたり、自由な生活を送る人が増えてきました。

(黒崎)そうした中で重要だと感じたのが、家具・インテリアという要素です。家を作る時に家具やインテリアを基軸に考える人が増えてきて、家具やインテリアに合う空間を作ってほしいといったオーダーが多くなりました。

(野田)空間の中で、家具やインテリアが大きなウェイトを占めるようになってきたんですね。

(黒崎)かつては「箱だけ作ってもらえればいい」と言われることもあって、インテリアと建築がセパレートしている感覚もあったんですが、家具とか、グリーンとか、アートとか、いろんな要素を融合させて良い空間を作り出すということが増えていきました。日本にハイエンドなホテルも増えましたし、そういった影響も受けながら人々の要求するレベルがどんどん上がってきたような気がします。

(野田)2000年頃からインテリアを特集する雑誌も増えましたね。「PEN」とか「Casa BRUTUS」が創刊して、椅子が表紙になったりして。

(黒崎)そうなんですよね。住宅やインテリアを扱うとすごく売れたそうですし、ファッション誌でも自分の部屋を紹介するページがあったりして。やっぱり、「Casa BRUTUS」が風穴を開けたと思います。建築家・インテリアデザイナーブームが来て、我々はその流れに乗らせてもらいました。

(野田)「I’m home」が創刊したのも同じ頃ですね。規制が緩和されて、六本木ヒルズのような高いビルがどんどん建ち始めて。2006年頃の東京はすごく活気がありましたけど、ローカルと都市とが二分化されて、貧富の差も目立つようになりました。

(黒崎)真ん中の層がいなくなりましたね。中の上くらいがデザイナーの主戦場だったのに、今はそのゾーンのマーケットがなくなりました。大量生産された安い商品を買う大衆層と、オーダーメイド品を買う富裕層に完全に分かれた気がします。

(野田)ヨーロッパ諸国ではそれが普通になっているし、これからもドーナツ化は進んでいくんでしょうけれど、マーケットはこれからどういう風になっていくと思われますか?

(黒崎)マーケット自体は、日本人とか外国人といった垣根を超えていくんじゃないかと思います。外国人からの依頼も増えたんですが、これからいろんな国の人たちが日本に訪れる可能性が高いと言われていますし、世界から見た日本人への期待とか、日本のデザインへの憧れというものを意識しながら、いかに外国人とコミュニケーションを取るかが重要になってくる気がしますね。
あとは、外国で仕事をしたり、日本で外国人と一緒に働いたりすることも増えるでしょうから、デザイナーたちの意識もどんどん変わっていくはずです。文化や背景が異なる人が集まると成長が早いですよね。

(野田)そうですね。建築もインテリアも、マーケット自体がフラット化していく中で、その価値を我々がどう創出していくか、というのがこれからの課題になりそうですね。

 

(野田)僕たちは、フランスのブランドRoche Bobois(ロッシュ ボボア)のディストリビューターを務めていますが、主軸にはAREAというブランドがあって、AREAをどのように育てていくかというのが一番のテーマです。すると、やっぱり世界基準で認知してもらいたいという思いがあるので、今、パリに直営店を出す準備をしています。

(黒崎)すごいですね。

(野田)Roche Boboisの仕事を通して学ぶことが多くて、ここ数年は目から鱗の連続です。

(黒崎)先日、Roche Boboisのソファ「Mah Jong」を拝見しました。鮮やかな色使いが注目されがちですが、ものすごく日本的な感じがしましたね。日本の文化に定着しそうだなと、まず最初に感じました。

(野田)世界中で人気のベストセラーソファです。座面が低いので、ちょうど日本の風土に合うんですよ。

(黒崎)合いますね。もともと日本にあった座具の原型に近いというのもあって、日本人が使用することで新たな使い方が出てくるんじゃないかとすら感じます。

(野田)そういう意味では、世界がボーダレスというか、すごく似通ってきていますね。これから、日本のインテリアブランドも世界に羽ばたいていくチャンスが出てくるんじゃないかと思います。
例えばヨーロッパには、世界的に有名な家具のラグジュアリーブランドがたくさんある中で、日本にはまたそういったブランドがないですよね。その一角をAREAはしっかりと作っていきたいと思っていますし、AREAじゃなくても誰かが担ってくれるといい。海外では、日本の家具ブランドが進出してくるのを待っているという話もよく聞きます。

(黒崎)海外に届けていない、届いていないのもあるでしょうね。ヨーロッパの人たちが日本のブランドに出会って、ヨーロッパブランドとの違いや日本独自のものを発見してもらえるといいですね。
例えば日本料理の豆腐は、見た目はシンプルで調理法もプレーン。だけど仕込みは複雑だし、原材料にもすごくこだわっていますよね。それは日本では当たり前なんだけど、世界中のフーディーがそれに気付いて注目していたり。そういうのは、インテリアでも同じなのかもしれません。

 

(黒崎)フィンランドでは、小学校で住宅とか生活についての授業があるんですよ。家の中での家族の役割とか、生活する中でゆくゆくは経験していかなければいけない根本的なこと、つまりは住まいの哲学についていろいろと学んでいて、その先に形とかデザインが生まれるわけです。ヨーロッパの人たちが子供の頃から哲学や住まいのことを学んでいるという、このベースは大きいと思います。
日本の場合は、哲学がなかったり生活の経験値が乏しかったりもするので、取捨選択するというよりもただ憧れだけで目新しいものを寄せ集めて、ブリコラージュ状態になってしまったり。

(野田)江戸時代は日本にもその哲学があったんでしょうけれど、戦後の日本人はアメリカのドラマを見て憧れたでしょうね。「アメリカ人はこんなに大きい冷蔵庫を使っているのか!」って(笑)。僕が中高生の頃も、ファッション雑誌で紹介されている洋服やカルチャーは「ザ・アメリカ」という感じのものばかりで、みんながそれを読んで憧れていました。でも、ようやく満ち足りた生活が送れるようになって、日本人もコンプレックスが払拭され始めたのかな。今の若い人たちはニュートラルに世界や物事を見ているし、自分が好きなものを好きって言えるパワーがありますから。新しい価値観を持って、時代を作っていってくれるでしょうね。

(黒崎)そうですね。これからの時代が楽しみです。

 

ゲストプロフィール
黒崎 敏(くろさき さとし)
株式会社APOLLO 代表取締役
1970年石川県金沢市生まれ。1994年明治大学理工学部建築学科卒業後、積水ハウス株式会社 東京設計部で新商品企画開発に従事。FORME一級建築士事務所を経て、2000年APOLLO一級建築士事務所を設立。2008年株式会社APOLLOに改組。「グッドデザイン賞」「東京建築賞」「International Space Design Award」グランプリなど国内外の受賞歴多数。邸宅や別荘、ホテルを中心に国内外で設計活動を行っている。

写真:高木あつ子