2017年9月から連載開始したスペシャル企画、連載対談「日本のインテリアの行方」の第六弾をお届けします。

今回のゲストは、デザイナーの牧野仁さんです。



(野田)本日はよろしくお願いします。

(牧野)よろしくお願いします。

(野田)まず最初に、牧野さんがこれまでされてきたお仕事についてお伺いできますか?

(牧野)はい。私はもともと日本の大手のオフィス家具メーカーでインハウスデザイナーをしていました。大企業の中で働いて、その当時はそれがデザイナーとして一番の舞台だと思って仕事をしていたんですが、次第に不自由さも感じるようになって。海外に目を向けるようになるにつれて、もっと外でチャレンジしてみたい気持ちが湧いてきたんです。それでその会社を辞め、イタリアに渡りました。

(野田)働き始めてからイタリアに行くまでは、結構時間があったんですよね。

_MG_0241(牧野)それまで日本で14年程働いていました。若くして海外に飛び込む方は多いと思いますが、30代半ばで行くっていうのはあまりないかもしれないですよね。イタリアではピエロ・リッソーニ氏の元で働いたんですが、やっぱり日本のデザインの仕方とは全然違ったんです。そこで新たに学ぶ経験ができたことは大きかったですね。日本では、いわゆるプロダクトデザインとインテリアデザインが大きく分断されていますが、彼は全て同じもの、同じことと捉えてデザインしていて、「だからこんなに美しくて使いやすいのか」と気がつきました。そうしてイタリアで、家具やプロダクトのデザインをしながら、空間デザインの仕事もさせてもらいました。

(野田)ミラノには10年いたんですよね。

(牧野)はい。2015年までミラノにいました。その後、ニューヨークや上海でも仕事をして、2016年に帰国し東京で個人事務所をスタートさせました。今では日本でも、家具をデザインし、同じように空間もデザインすることで、より良いものを生み出すというスタイルを目指して活動しています。

(野田)それから2年ですね。空間をトータルにデザインするという試みは、日本ではどうですか?

(牧野)ヨーロッパでもそうなんですが、特に日本は、例えば建築と家具の職人さんは、関係性が遠いですよね。業種が分かれている、仕事の作業が違うということはあるにしても、メンタルの部分であまりに差があるので、そこを繋いでいくのが大変ですね。それぞれの思いや、これまでのやり方が当然ありますから。その関係性をもう少し近づけていくことができれば、使う人にとって、もっと良いもの作りができるんじゃないかなと感じています。

_MG_0241(野田)そうですね。僕も昔から似たようなことを常に考えていました。僕は大学を出た後、建材メーカーに勤めていたんです。家のドアや、外壁、水回り等も全部担うんですが、どんなに凄い家が出来上がっても、その後お客さんが自分で家具を入れるとチグハグになってしまうんですよ。だから、建材メーカーと家具屋の仕事を一つにしたい、一人のデザイナーがドアも家具もデザインする必要がある、とずっと思っていました。
それで、家具の勉強をするために家具屋に転職してから、独立してAREAを立ち上げました。AREAでは、オリジナル家具の他にオーダー家具や建具も扱っているので、空間のトータルコーディネートに柔軟に対応できるようになりましたね。

(野田)だけど、やっぱり家具と建築の職人はそもそも普段交流することがないですから、牧野さんの立場ではジレンマがあるでしょうね。おっしゃっていることはとても良くわかりますし、その分断というのが、日本では空間の出来に左右しているように思います。

(牧野)分断の原因は何なのか?と考えた時、誤解を恐れずに言うと、デザインする人、設計する人の意識の問題もあると思います。極端に言えば、家具のデザイナーは家具だけ作って終わりとか、建築士の方の中には箱だけ作って終わり、と考える人もいるんではないでしょうか?効率が悪かったり利益が減ってしまうかもしれませんが、本当に提供すべきものを蔑ろにせず、その先の、その空間を使う人、その人の生活を考えることも必要だと思いますね。

(野田)例えばアーティストの場合、相対的な考え方はせず、その造形美しかイメージしていない場合があるかもしれませんが、難しい線引きですよね。
家具業界からの視点で言うと、建築や一人一人に合わせた家具が特注製作できるか、その技術力だけでなく妄想力を持つことも必要だと思います。

(牧野)妄想力というのは、デザイナーに本当に必要ですね。

(野田)建築に寄り添い、使う人にとってもベストな家具を想像してデザインできる人が増えていくといいですね。そういった意味ではこれからの時代が楽しみですし、牧野さんにはぜひ頑張っていただきたいです。

(牧野)こちらこそ、いろいろ教えてください。日本もこれからどんどん変わっていくはずなので、皆さんと一緒に育てていくことができればと思います。ヨーロッパで長年やってきたので、そこで培った人間関係も生かしていきたいですね。

(野田)牧野さんは、Roche Boboisの商品のデザインも手掛けていますしね。

(牧野)そうですね。ヨーロッパでは、アジアの中でも特に日本人のデザイナーが評価されています。例えば”侘び寂び”といったような日本人ならではの感性は、強みとして持ち続けていきたいし、これからも育んでいきたいと思います。

(野田)AREAは海外への展開を視野に入れ、ヨーロッパの現地法人を立ち上げたところです。これを機に日本の家具がどんなものなのかを、もう一度探求していきたいと思っています。

(牧野)過剰に日本を意識せずに、自分たちなりに美しいものを作って海外に持っていけば、それだけでも圧倒的なパワーが出せると思いますよ。

(野田)最後になりますが、日本のインテリアの未来を考えると、家具と建築は空間の中でもっとしっかり融合させていきたいですね。

(牧野)はい。雰囲気をデザインするには、それを分けて考えることはできないはずですから。

(野田)僕たちも、これからも接点はあるはずなので、引き続きよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。

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ゲストプロフィール
牧野 仁(まきの ひとし)
大手オフィス家具メーカーのインハウスデザイナーを経て、2005年に渡伊。ミラノの建築デザイン事務所”LISSONI ASSOCIATI”とコラボレーター契約し、ピエロ・リッソーニ氏に従事、様々なプロジェクトに参加する。イタリア著名ブランドのための家具プロダクトデザインや、ホテル、飲食店、アパレル店舗及び個人住宅等、多様な物件のインテリアデザインを手がける。2016年帰国し、東京で個人事務所”株式会社HITOSHI MAKINO Design”を設立。東京を拠点に、家具デザインから空間デザインまでトータルに提案するデザイナーとしてグローバルに活躍している。

写真:高木あつ子