創業15周年を迎えるAREAの2017/2018年のブランドテーマは「GLAM」。このテーマを軸に、2017年9月より、AREA各店では独自企画や多様なブランドとのコラボレーションに取り組んでいます。
ホームページでは、スペシャル企画として連載対談「日本のインテリアの行方」をお届けします。

第五回目のゲストは、デザイナーの橋本夕紀夫さんです。



(野田)いろいろなところでお会いしてご挨拶をしていますが、きちんとお話をさせていただくのは今日が初めてですよね。本日はよろしくお願いします。

(橋本)よろしくお願いします。

(野田)橋本さんはホテルや飲食店など、商業施設のデザインをたくさん手掛けていらっしゃいます。僕たちがやっているインテリアの仕事は建築の世界とも深い関係性を持っているわけですが、橋本さんは特にそのつながりが深いと思うので、建築の世界からの視点も交えながらお話をお聞かせいただければと思っています。

(橋本)はい。我々のやっている仕事では、建築とプロダクトのどちらの分野にも踏み込んで空間構成を考えていく必要があります。家具一つで空間がガラッと変わるという経験をこれまで何度もしてきているので、家具にしても照明器具にしても、空間にとってはすごく大事だと思っています。

(野田)確かに。そうですね。

_MG_0241(橋本)建築と家具の組み合わせによって、空間や環境はどんどん変化していきますよね。内装を何も装飾していない建築でも、そこに家具を組み合わせるだけで一つの世界観ができますし、逆に装飾してあったとしても常にそこに置かれる家具との関係を考えなければいけません。

最近はホテルの仕事が結構多いんですが、ホテルのプロジェクトを進行する時には「建築」と「FFE」という言葉が使われるんです。FFEというのは、「Furniture(家具)」「Fixture(什器)」「Equipment(備品)」の頭文字。ホテル業界にはそうしたジャンルの区分けがあって、それぞれ別々のデザイナーによってデザインされていくのが普通なんですよ。
でも我々がホテルを手掛ける場合は、実際の建築と家具との関係とか、その環境作りが大切だと思っているので、建築とFFEは一体として考えて同時進行でデザインしていきます。

(野田)僕は建築のプロではないですけど、過去の功名な建築家は、橋本さんのように建築と家具との一体化を目指していたように思います。ライト(フランク・ロイド・ライト)でもミース(ミース・ファン・デル・ローエ)でも、その土地や風土にのっとった建築をデザインすると同時にその中の家具もデザインしていたと認識しているんですけれど、どうして建築とFFEを分けるケースというのが出てきているんでしょうね?

(橋本)それが不思議ですよね。ライトにしろミースにしろ、建築の箱だけ作ってその先の内装や家具は別物なんていう考え方は全くしていない。特にライトはディテールまで相当思いを込めて考えていますよね。

建築、装飾、家具を一体化して考えるのが近代建築だったはずなのに、だんだんカテゴリが分離していって、今ではそれぞれの専門家がデザインするという世界になっているんです。当然、大きなプロジェクトになればなるほど、それぞれの専門家が入っていかないと手が回らないという理由もあるんだとは思いますが…。我々は、ライトとかミースが取り組んできたような本来のやり方を継承していきたいなと思っています。

_MG_0267_(野田)僕は大学を出た後、建材メーカーに勤めていたんです。ドアやフローリング、階段などを建設中の戸建てに入れるんですが、そうして出来上がった家を家主に引き渡していく過程をたくさん見てきました。その時感じていたのが、そこに住む人が、完成した家を手にしてから徐々に家具を買い揃えていくことへの違和感です。例えばソファを買うなら、家のドアとデザイナーが同じだった方が一体感が出てコーディネートも引き立つのにって思っていて。せめてリビングのドアだけでも何とかならないのかと。そういう思いを持ちながら家具業界に転職しました。

(橋本)そうだったんですか。

(野田)はい。それで、建築、建材、家具というようになぜか分かれてしまった分野を一つにしたいと考える中で、その後AREAを作ったという経緯があります。AREAでは置き家具だけでなく、建具などの建材や、フルオーダーの壁面収納といった据え付け型の特注家具もたくさん取り扱っているんですが、当時は壁面収納を扱って、ましてや設置の施工までしているインテリアショップは他にはありませんでした。

(橋本)確かに建具とか作り付けの収納は、ちょうど建築とインテリアの間に位置付けられていますね。家具から発想していく空間作りも、絶対にあった方がいいですよ。一般的には家具が一番最後になるケースが多くて、それはそれでいいと思うんですが、その場合は家具自体がフレキシブルじゃないと対応しきれないですからね。ソファだったら張地が選べるというのはよくありますが、空間に合わせてもっと柔軟に対応できる家具が増えればいいですよね。

(野田)建築にアジャストしていく能力を高めたのが特注家具ですね。AREAでは特注家具も手掛けていますが、お客様に寄り添った家具だと思います。

(橋本)例えば、使う人の想像力を刺激するような特徴的な家具が生まれたら、考え方も変わってくるかもしれないですね。ごく普通の空間でも、強い個性をもった家具を置くことによって周りの環境も変えてしまうような。ソファやダイニングチェアも、まだまだ可能性があるんじゃないかと思います。いろんなアプローチができる気がしますね。

(橋本)将来、たくさんの人が宇宙に旅に出る、という時代が来るかもしれませんが、例えばその宇宙船の内装をどうするか、どんな家具を置こうか?と考えると面白いですよ。居住性とか人間らしさ、自然素材を使った心地良さを求められたらどうするのかって。

(野田)面白いですね。昔見た手塚治虫の漫画で未来の家が描かれていて、それが今でも強く心に残っています。人が部屋に入ってボタンを押すと、床から椅子が出てきて、壁からはテーブルが出てくるんですよ。すごく未来的なイメージですが、建築と家具はいずれは一体化していくんじゃないかと思っています。調度品とかアートとしての家具は残っていくでしょうが、そういう未来像が僕の中にあるんです。

(橋本)まだ実現されていないですが、そういう考え方もずっとありますよね。確信犯的に人工的な家具を作ったりするケースがありますけれど、写真写りは良くてもそこで過ごそうとすると落ち着かないんですよね。家具が持っている触感とか質感がすごく大事。

(野田)車でも手が触れる部分は木だったりしますね。

(橋本)AREAは無垢材を使っていますが、日常の中で使う家具はやっぱり質感が大事で、自然素材とか暖かさの感じられる家具を求めてしまいます。昔の人たちも全部手でモノづくりをして、自然の材料を大切にしてきましたしね。

(野田)はい。AREAは無垢材にこだわって家具を作っていますが、やっぱり無垢材はいいですからね。経年変化も楽しめますし、成長し続けるという点が魅力的です。

(橋本)成長するっていいですよね。過去には進化とか発展という言葉がよく使われてきましたが、成長というキーワードでいろいろな物事を捉えていくと、世界観が変わるんじゃないかと思います。建築もインテリアも、面白い未来が待っていそうですね。

_MG_0259_

ゲストプロフィール
橋本 夕紀夫(はしもと ゆきお)
橋本夕紀夫デザインスタジオ デザイナー。1986年、スーパーポテト入社。1996年、橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。1997年、有限会社 橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。ナショップライティングコンテスト優秀賞、JCD優秀賞、 北米照明学会IIDA アワードオブエクセレンスなど多数の受賞歴を持つ。現在、昭和女子大、愛知県立芸術大学 非常勤講師。著書に『LEDとまげわっぱ – 進化する伝統デザイン』(六耀社刊)がある。

写真:高木あつ子